目次
治療までの経緯
患者様は、他府県からわざわざ2時間かけて当院へ来院されました。遠方にもかかわらず来院された理由を伺うと、「フラップレスオペを希望していたから」とのことでした。
フラップレスオペとは、インプラントを埋入する際に歯茎をほとんど切開せず、最小限の穴からインプラントを埋入する方法です。術後の痛みや腫れを抑えやすく、治療期間の短縮にもつながります。
この治療で重要になるのが、サージカルガイドです。サージカルガイドとは、口腔内スキャナーのデータとCTデータを重ね合わせ、インプラントの位置・角度・深さを事前にシミュレーションしたうえで、計画通りに埋入するための装置です。これにより、必要最小限の切開でインプラント手術を行うことが可能になります。
当院では、基本的に全てのインプラント症例でこのサージカルガイドを使用しています。今回の患者様も、まさにそれを目的に来院されました。
診査の結果、骨や歯茎の状態には大きな問題はなく、次回来院時にインプラント手術を行うことも可能な状態でした。ただし、問題点が2つありました。

1つ目は、前後の歯の形態があまり良くなく、噛み合わせが不自然であること。2つ目は、噛み合う上の歯の根の先の状態が悪く、近い将来トラブルが起こる可能性があることです。
その点を患者様にお伝えしたところ、患者様は遠方からの来院であるため、もし将来的に他の歯に問題が起きた場合は、近隣の歯科医院で治療を受けるとのことでした。そのうえで、今回は「インプラント部分に関しては、できる限り理想的な形態と噛み合わせにしてほしい」とご希望されました。
そのため、当院としても理想的な形態を付与しつつ、必要に応じて周囲の歯も最小限の範囲で調整させていただき、将来的に他院でも治療しやすい状態を意識しながら治療を進めることになりました。
インプラントの位置とシミュレーション

インプラントの埋入位置を決定するためには、顎の骨の厚みや高さ、そして神経までの距離を正確に把握することが重要です。特に下顎には下歯槽神経という重要な神経が通っており、この神経を傷つけてしまうと、唇や顎にしびれが残る可能性があります。
そのため、CT画像を用いて神経の位置を詳細に確認し、骨の状態を三次元的に分析したうえで、安全にインプラントを埋入できる位置や角度、深さを決定します。当院では、その情報をもとにインプラントシミュレーションを作製し、事前に綿密な治療計画を立てています。これにより、安全性と精度を高め、より予知性の高いインプラント治療を行うことが可能となります。
サージカルガイド作製

インプラントの埋入位置が決定したら、口腔内スキャナーで取得したデータとCTデータを専用のインプラントシミュレーションソフトに取り込みます。そのデータをもとに、インプラントを正確な位置・角度・深さに埋入するための「サージカルガイド」を設計していきます。
サージカルガイドの設計が完了すると、そのデータを3Dプリンターへ送り、実際にガイドを製作します。そして完成したサージカルガイドを手術当日に使用することで、事前のシミュレーション通りにインプラントを埋入することが可能になります。
つまり、CT撮影 → シミュレーション → サージカルガイド設計 → 3Dプリント → インプラント手術、という流れで治療を進めていきます。
近年はサージカルガイドを利用する歯科医院も増えてきましたが、
- シミュレーション
- ガイド設計(CAD)
- 3Dプリントによる製作
までをすべて院内で完結できるクリニックはまだ多くありません。

当院では、このデジタルワークフローを院内で構築しており、診断から設計、製作、手術までを一貫して管理しています。そのため、迅速かつ精度の高いインプラント治療を提供することが可能となっています。
インプラント埋入手術 10分で終了

インプラント埋入当日は来院されてから、まずはクリーニングをして、麻酔をします。そこから、インプラント埋入手術を行いますが、サージカルガイドを用いれば、10分ほどで手術は終了します。(骨と歯肉の状態がよい症例の場合に限ります。)
ほとんど出血はなく、患者様もとても楽で喜んでいらっしゃいました。したがって、来院してから30分ほどで患者様は帰路に着くことができました。
インプラント最終セラミックセット

インプラントを埋入して1か月ほどでインプラントは生着するので、スキャン印象を行い、インプラントの仮歯をセットし、患者様に使用してもらいます。まずは、ゆっくりと2〜3日ぐらい実際にお口の中でテストしてもらいます。今回の患者様はかなり舌感の敏感な方だったので、少し心配でしたが、全く問題なく、『この仮歯が最終的なものでも良いぐらいです』ととても喜んで頂けました。
問題が全くなかったので、最終的なインプラントセラミックを製作、セットを行い、全ての治療過程がスムーズに終了しました。治療期間は3か月弱で終了しました。
唯一、私が気になるところは、前後の歯の形態と噛み合わせ、さらに、今回のインプラントセラミックと噛み合う上の歯です。あまり良い状態ではなかったので、当院でできる最良の治療はさせて頂きましたが、もし、ご縁がありましたらまた前後の歯も治療することは可能ですとお伝えさせて頂きました。
あとは、1年に2回メインテナンスに来てくださいねとお伝えし、治療は終了しました。


痛みが本当に苦手な方で不安そうな顔で遠方から当院にこられました。しかし、治療が終了する頃には笑顔で医院を後にするのをみて本当に私たちも嬉しかったです。
ドクターからのアドバイス
歯がなくなったところに入れるだけの歯科治療は危険?「つぎはぎ治療」の問題点
今回の患者様は、結果的に歯を失った部分にインプラントを入れる治療を行いました。しかし、私は当初、その部分だけの治療を積極的にはおすすめしませんでした。その理由をご説明します。
① 今の噛み合わせに問題があった
インプラントと噛み合う上の歯には大きな根の病変があり、噛み合わせの状態も良いとは言えませんでした。下のインプラントの被せ物を製作する場合、当然ながら上の歯との関係を考えながら作る必要があります。そのため、本来であれば上下をセットで治療することをおすすめしました。
もちろん、上の歯の状態や噛み合わせに問題がなければ、必ずしも全体的な治療が必要なわけではありません。しかし今回は、長期的な安定を考えると、上下のバランスを整える方が望ましい状態でした。
② 前後の歯の形や歯列の流れに問題があった
噛み合わせには「咬合平面(こうごうへいめん)」という重要な考え方があります。歯を一本ずつ、その都度悪くなったところだけ治療していくと、咬合平面が少しずつ乱れ、噛み合わせ全体のバランスが崩れていきます。すると、別の歯に負担がかかり、新たなトラブルを生み出す原因になります。このような治療を私は「つぎはぎ治療」と呼んでいます。
もちろん、すべての部分的な治療が悪いわけではありません。ただし、全体のバランスを考えずに部分的な治療だけを繰り返していると、再治療のサイクルから抜け出せなくなることがあります。
なぜ治療を繰り返してしまうのか?
患者様の中には、「こんなに歯医者に通っているのに、なぜまた悪くなるのだろう?」と感じている方も少なくありません。その理由の一つが、症状が出た部分だけを治療する「対処療法」になっていることです。
例えば、
- 歯が割れたから治す
- 虫歯になったから詰める
- 歯を失ったからインプラントを入れる
これらは必要な治療ですが、なぜその歯が悪くなったのかという原因まで改善しなければ、再び問題が起こる可能性があります。痛みが出た時に痛み止めを飲むだけでは根本的な解決にならないのと同じです。長期的に安定した口腔内を目指すためには、悪くなった原因を見つけて改善する「原因療法」が重要になります。
「つぎはぎ治療」を止めるためには?
実際には、多くの歯科治療は悪くなった部分を治すことから始まります。また患者様自身も、「とりあえず悪いところだけ治してほしい」と希望されることが少なくありません。もちろん、それが必要な場面もあります。
しかし、本当に長持ちする口腔内を目指すのであれば、
- 上下の噛み合わせ
- 前後の噛み合わせ
- 歯並び
- 咬合平面
- 奥歯と前歯のバランス
- 左右のバランス
- 骨格との調和
まで含めて考える必要があります。
長持ちする治療とは
私たち歯科医師の役割は、単に悪い歯を治すことだけではありません。なぜその歯が悪くなったのか。なぜ繰り返しトラブルが起きているのか。その原因を探し、再発しにくい環境を作ることが大切だと考えています。
もし、「いつも同じような治療を繰り返している」「なぜこんなに歯科医院へ通っているのだろう」と感じているのであれば、一度お口全体を診断し、噛み合わせや歯並びまで含めて相談してみるのも良いかもしれません。
確かに全体的な治療には時間も費用もかかります。しかし、これから先の自分の歯を守り、再治療を減らしていくための選択肢として、一度考えてみてはいかがでしょうか。
治療の詳細
| 年齢・性別 | 40代女性 |
|---|---|
| 主訴 | フラップレス手術で右下の奥歯1本インプラントして欲しい |
| 治療内容 | 右下奥歯インプラント治療1本 |
| 費用 | インプラント44万円(税込) |
| 治療期間 | 治癒期間3か月弱 |
| リスク・副作用 | 治療後はしっかりとメインテナンスを行わないと歯周病になる可能性があります。 |
【執筆・監修者】

帝塚山Smile Design Clinic(スマイルデザインクリニック)
院長:岩下太一(歯学博士)
ITI日本支部公認インプラントスペシャリスト認定医
オステムインプラントインストラクター 講師
他、所属学会、認定資格多数
当院の院長はインプラント治療を他の歯科医師に教えるインストラクターの指導的立場として歯科界に貢献しております。また世界的に有名なインプラント学術団体ITIのインプラントスペシャリストの認定医でもあります。他院で難しいと言われたインプラント治療でもインプラント大阪では十分に対応できる技術があります。
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