症例一覧

奥歯を入れ歯からインプラントへ
入れ歯ではなくインプラントで噛みたい患者様

入れ歯からインプラントへ 患者様の「これからの人生」を支えるために

治療までの経緯

患者様は、長年入れ歯を使用されていました。

しかし、

  • 「もっとしっかり食事を楽しみたい」
  • 「旅行先で入れ歯を気にすることなく、その土地の名物を味わいたい」
  • 「これからの人生を入れ歯のままで終わりたくない」

という強い思いを持って当院へ来院されました。

患者様は70代の女性でしたが、毎日のように畑仕事をされており、とてもお元気で活力にあふれた素敵な方でした。お話を伺っていると、「年齢」ではなく「これから何をしたいか」を大切にされていることが伝わってきました。きっとこれからも多くのことに挑戦し、人生を楽しまれていくのだろうと思いました。

私自身もその思いに応えたいと考え、まずはCT撮影や口腔内スキャンなどの資料採りを行い、十分な審査・診断を実施しました。その結果、インプラントを埋入するための骨量は十分に残っていることが分かりました。

しかし、一つ大きな問題がありました。それは、インプラント周囲を守るために重要な『角化歯肉』がほとんど失われていたことです。

角化歯肉とは、健康な歯の周囲に存在する硬くて丈夫な歯肉のことです。例えるなら、魚のうろこのように強く、外部からの刺激に耐えられる組織であり、歯やインプラントを守る「鎧」や「プロテクター」のような役割を担っています。

この角化歯肉が十分に存在することで、

  • 歯ブラシがしやすくなる
  • 清掃時の痛みが少なくなる
  • 炎症が起こりにくくなる
  • インプラント周囲組織の安定につながる

といったメリットがあります。つまりインプラントの長持ちに必要な組織です。

今回の患者様は、かなり以前に歯を失っており、その後長期間にわたって入れ歯を使用されていました。そのため、本来歯を守っていた角化歯肉が徐々に失われ、インプラントを支えるには十分とはいえない状態になっていました。

そこで私は、単にインプラントを埋入するだけではなく、長期的な安定を目指すために遊離歯肉移植術(FGG:Free Gingival Graft)を併用する治療計画をご提案しました。

遊離歯肉移植術とは、主に上顎の口蓋から健康な角化歯肉を採取し、不足している部位へ移植する治療です。これにより、インプラント周囲に十分な角化歯肉を獲得し、将来的な清掃性や長期安定性の向上を目指します。

患者様には、「インプラントを入れることがゴールではありません」「10年後、20年後も快適に使い続けるためには、その周囲の歯肉環境も整える必要があります」ということをお伝えしました。

すると患者様は、「せっかく治療するなら、長持ちするようにしっかり治したい」「これからも元気に食事を楽しみたい」とお話しくださり、遊離歯肉移植術を含めた治療計画にご同意いただきました。

インプラント治療は、単に失った歯を補う治療ではありません。その方のこれからの人生を支え、好きなものを食べ、旅行を楽しみ、健康的な毎日を送るための治療です。今回の症例も、「これからの人生をもっと楽しみたい」という患者様の前向きな思いから始まった治療でした。私たちもその思いに応えられるよう、長期的な安定まで見据えた治療を進めていくことになりました。

インプラント埋入

インプラント埋入手術は、事前に作製したサージカルガイドを使用して行いました。術前のCTデータと口腔内スキャンデータを重ね合わせ、骨の状態だけでなく、最終的に入る被せ物の位置や噛み合わせまで考慮したうえで埋入位置をシミュレーションしています。

今回の症例では、インプラントを埋入するための骨量は確保されていましたが、骨幅はやや細い状態でした。そのため、単純に骨の中央へ埋入するのではなく、上顎の歯との位置関係や将来的な被せ物の形態を考慮しながら、最も予知性の高い埋入ポジションを決定しました。

そして、そのシミュレーションどおりの位置へ正確に埋入するためにサージカルガイドを使用しました。

サージカルガイドとは、事前にコンピューター上で設計したインプラントの位置・角度・深さを実際の手術で再現するための装置です。これを使用することで、

  • 埋入位置の誤差を最小限に抑えられる
  • 周囲組織への侵襲を軽減できる
  • 手術時間を短縮できる
  • 最終的な被せ物の精度向上につながる

といったメリットがあります。

実際の手術は非常にスムーズに進行し、計画した位置へピンポイントでインプラントを埋入することができました。手術時間も30分かからずに終了し、術中のトラブルもなく、安全に処置を終えることができました。

インプラント治療において重要なのは、「インプラントが入れば良い」ということではありません。最終的な被せ物の形態や噛み合わせ、清掃性、そして長期的な安定性まで見据えて埋入位置を決定することが大切です。

今回も術前の綿密なシミュレーションとサージカルガイドを活用することで、理想的な位置にインプラントを埋入することができました。これにより、今後の補綴治療やメインテナンスにおいても良好な結果が期待できる状態となりました。

綿密なシミュレーションとサージカルガイドを活用することで、理想的な位置にインプラントを埋入

インプラント埋入と同時に角化歯肉を移植 『遊離歯肉移植術(FGG)』

今回はインプラント埋入手術と同時に、遊離歯肉移植術(FGG:Free Gingival Graft)を行いました。遊離歯肉移植術とは、不足している角化歯肉を別の部位から移植し、インプラント周囲に健康で丈夫な歯肉を獲得するための治療法です。

まず術前に、どの範囲に角化歯肉が必要なのかを確認し、移植する範囲を決定します。

どの範囲に角化歯肉が必要なのかを確認し、移植する範囲を決定します。

その後、移植片の採取を行います。実は上顎の内側(口蓋)の歯肉は、そのほとんどが角化歯肉で構成されています。そのため、インプラント周囲の角化歯肉が不足している場合には、この部位から歯肉を採取して移植することが一般的です。

患者様からよく、「歯肉を取った場所は大丈夫なのですか?」というご質問をいただきます。もちろん採取した直後は歯肉がなくなった状態になりますが、採取部位にはコラーゲン材を設置し、その上から保護用のレジンプレートを装着します。いわば傷口に対する包帯のような役割です。

この保護装置を縫合によって固定し、約1週間後に取り外します。その後も治癒は順調に進み、通常は1か月ほどで採取部位もきれいな状態へ回復していきます。

FGG

インプラントの周りには角化歯肉が生着し2週間ほどで抜糸します。これでインプラントの周りにしっかりとした鎧の歯茎を獲得できたので、これからのインプラントの予後も安心です。

FGGの治療直後

インプラントの最終的な被せ物セット

インプラント埋入後は、インプラントと周囲の歯肉が安定するまで約1か月半の治癒期間を設けました。その後、インプラントと骨の結合状態や移植した歯肉の状態に問題がないことを確認したうえで、仮歯を装着しました。

この患者様は長期間入れ歯を使用されていたため、頬の筋肉の動きや噛み方、舌の使い方が入れ歯の形態に適応している状態でした。そのため、最終的なセラミックを製作する前に、実際の歯に近い形態の仮歯を使用していただき、さまざまな項目を確認する必要がありました。

具体的には、

  • 噛み合わせに問題がないか
  • 違和感なく食事ができるか
  • 見た目に問題がないか
  • 頬や舌を噛んでしまわないか
  • 清掃しやすい形態になっているか

といった点を確認していきます。

仮歯は単なる仮の歯ではなく、最終的な被せ物を成功へ導くための重要な試運転期間でもあります。

今回は奥歯2本のインプラント治療でしたが、仮歯を装着した後も特に問題は認められませんでした。患者様は違和感なく食事をすることができ、噛み合わせや清掃性、周囲組織の状態も良好でした。

そこで、仮歯で得られた情報をもとに最終的なセラミック製作へ移行しました。口腔内スキャナーによるスキャン印象を行い、精密なセラミックを製作・装着した結果、機能面・審美面ともに満足のいく仕上がりとなりました。

こうして無事に治療を終了することができ、患者様にも大変喜んでいただくことができました。
奥歯に2本のインプラントを入れて、頬側に角化歯肉を移植。

こうして無事に治療を終了することができ、患者様にも大変喜んでいただくことができました。患者様は畑仕事をする際にも奥歯に力が入るようになったので、嬉しいとおっしゃってくださり、わざわざ畑でとれた野菜を山盛り持ってきてくださるようになりました。それがすごく新鮮でスタッフもみんな大喜びで、野菜を分け合い夕飯の足しにさせていただいております。

術前、術後、レントゲン

ドクターからのアドバイス

『インプラントは何年もつの? インプラントの寿命は何年?』

インプラント治療を検討される患者様から、必ずと言っていいほど聞かれる質問があります。

「インプラントはどれくらいもちますか?」

インプラント治療は決して安価な治療ではありません。そのため、「せっかく治療するなら長く使いたい」「やり直しはしたくない」と考えるのは当然のことだと思います。

実際、インプラントの歴史を振り返ると、世界で最も長期間機能している症例では50年以上問題なく使用されているものもあると言われています。また、多くの研究ではインプラントの10年生存率は95%以上と報告されており、非常に予知性の高い治療法であることが分かっています。

さらに近年では、

  • インプラントの形態
  • 表面性状
  • 診断技術
  • デジタル技術
  • 骨造成技術

などが大きく進歩しているため、将来的にはさらに長期間機能することが期待されています。

しかしその一方で、インプラントを失ってしまう方がいるのも事実です。

インプラントを失う最大の原因

インプラントが脱落する原因はいくつかありますが、最も多い原因の一つが「インプラント周囲炎」です。これは簡単に言うと、「インプラントの歯周病」です。

インプラントは虫歯にはなりません。しかし、歯周病にはなります。インプラントの周囲に細菌が繁殖すると歯肉に炎症が起こり、さらに進行するとインプラントを支えている骨が徐々に溶けていきます。そして骨の支えを失ったインプラントは、最終的に動揺し、脱落してしまうことがあります。

インプラントを長持ちさせるために大切なこと

では、インプラント周囲炎を予防するためには何が必要なのでしょうか。まず重要なのは定期的なメインテナンスです。定期検診では、

  • 専門的なクリーニング
  • 歯石除去
  • 噛み合わせのチェック
  • レントゲンによる骨の確認
  • 歯肉の状態の評価

を行います。これらはインプラントを長持ちさせるために欠かせません。

しかし、実はそれ以上に大切なことがあります。それは、患者様ご自身による毎日の歯磨きです。

たとえ3か月に1回メインテナンスへ通院されたとしても、歯科医院で管理できるのは年間で考えるとごくわずかな時間です。言い換えれば、インプラントの健康の99%は、ご自宅でのセルフケアによって支えられているとも言えます。私たちがどれだけ丁寧に治療しても、毎日の清掃ができなければ長期的な成功は難しくなります。

なぜ角化歯肉が重要なのか

だからこそ、今回の症例で行った遊離歯肉移植術(FGG:Free Gingival Graft)には大きな意味があります。インプラントの周囲に十分な角化歯肉が存在すると、

  • 歯ブラシを当てても痛みが少ない
  • 清掃しやすい
  • 歯肉が傷つきにくい
  • 炎症が起こりにくい
  • メインテナンスしやすい

というメリットがあります。

私はよく患者様に、「角化歯肉はインプラントを守る鎧(よろい)です」とお話ししています。どれほど良いインプラントを埋入しても、その周囲の環境が整っていなければ長持ちしません。逆に、しっかりとした骨と角化歯肉があり、毎日の歯磨きと定期的なメインテナンスが継続できれば、インプラントは非常に長期間機能する可能性があります。

インプラントの寿命は、インプラントそのものだけで決まるわけではありません。患者様の日々のセルフケア、定期的なメインテナンス、そして長持ちする環境づくり。そのすべてが揃って初めて、インプラントは長期にわたって患者様の人生を支えてくれるのです。

今回の症例では、インプラントを埋入するだけでなく、角化歯肉を獲得することで「長持ちするための環境づくり」まで行うことができました。これからも定期的なメインテナンスを通じて、この良好な状態を維持していきたいと思います。

治療の詳細

年齢・性別70代女性
主訴入れ歯をやめてインプラントで噛みたい
治療内容左下奥歯インプラント治療2本
費用インプラント44万円×2本
治療期間治癒期間4か月
リスク・副作用治療後はしっかりとメインテナンスを行わないと、歯周病(インプラント周囲炎)になる可能性があります。

【執筆・監修者】

院長:岩下太一(歯学博士)

帝塚山Smile Design Clinic(スマイルデザインクリニック)

院長:岩下太一(歯学博士)

ITI日本支部公認インプラントスペシャリスト認定医
オステムインプラントインストラクター 講師
他、所属学会、認定資格多数

当院の院長はインプラント治療を他の歯科医師に教えるインストラクターの指導的立場として歯科界に貢献しております。また世界的に有名なインプラント学術団体ITIのインプラントスペシャリストの認定医でもあります。他院で難しいと言われたインプラント治療でもインプラント大阪では十分に対応できる技術があります。

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